望月/シテ:片山清司/宝生能楽堂
満月か藤原道長の話かと思ったら、「望月秋長」という侍への仇討ち物語だった。しかも、シテは仮面をつけない直面。昔は武士だったが、今は宿屋の主、という冴えない存在である。幽霊も精霊も出てこない、歌舞伎みたいな今まで見たことがない曲だった。
今回、観世流だが、これから1週間のうちに宝生流、喜多流という三つの違う流派で同じ曲の競演がある。演出もちょっと面白かったので、ものすごく楽しみ。衣装も違うだろうし。
偶然、シテ(望月秋長に殺された主君の家臣)の経営する宿に、敵であるワキ(望月秋長)と主君の妻子(ツレと子方)が泊まり合わせる。酔わせた勢いで仇討ちを果たす、というヤマトタケルノミコトとクマソみたいな、あるいはアラビアンナイトみたいな話。
ツレが宴席で「曽我兄弟」の謡を披露しているうちに、子方が思わず「討て!」と叫んだときの場の異様な盛り上がり方と、ワキの家臣のアイ(野村萬斎)が刀を構えた瞬間が、鳥肌が立つくらいかっこよかった。ワキ正面なので、ワキとアイに対面する形(逆に言えばツレの立場)になっているので、正面から見ている人とは感じ方が違うと思うけど。
あと、シテの獅子舞。これを友枝さんも舞うのかしら?と思うくらい激しい舞。クライマックスで衣装の中にすっぽりシテが入ってしまって、そこからどんな化け物が飛び出すかと思えば、鉢巻きをした桃太郎のような「人間」のシテが現れる。獅子は、ミツウロコの蛇の衣装を着ているので、これこそ化け物であり、そこから「人間」が現れるのはものすごいパラドックス。
シテの助けを借りて、子方が仇討ちを果たすのだけど、コロシなんてどう表現するのかしら、と思っていたら、間髪も入れず切戸からワキが退場したのが、「象徴」をキモとする能っぽくて感心した。
妙に俗っぽい話だけれど、なんというか、宴席の「芸」であるはずの「獅子舞」が「異世界からの何者か」を思う存分発現していて、見ているうちに泣けたりする歌舞伎とは明らかに違う(だってこの獅子舞は仇討ちのストーリーに必要ないもの)磁場をつくりだしていた。これぞ藝術だと思う。
シテ 片山清司
ツレ 梅若晋矢
子方 小早川康充
ワキ 殿田謙吉
アイ 野村萬斎
笛 一噌幸弘
小鼓 吉阪一郎
大鼓 亀井広忠
太鼓 観世元伯


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