太くて皺だらけの荒れた指。合成洗剤を使って水仕事をたくさんして、クリームも塗らずにわざと荒らしたかもしれない。田中裕子なら、そのくらいのことはするかもしれません。
「オカン」を演じるためならば。
「芋たこなんきん」の完成度が高いのは、藤山直美のテンションに合わせられるだけの俳優が厳選されているからですが、「東京タワー」はかなりそれに近いものがありました。
ひとりずつあげてゆくときりがないのですが、蟹江敬三、加藤治子らの大ベテランは言うに及ばず、大塚寧々もよかったですね。(かなり、と言わなくてはならないのは広末涼子のためですが。)
癌患者を身近でふたり看取ったことがありますが、「癌で本当に具合の悪い人」を、物語映像で初めてみました。『寅次郎ハイビスカスの花』撮影中の渥美清がそうでしたが、口を効くのも、表情に出すのも億劫な苦しさ。最後に
意味のある言葉など残してくれなくて、呼びかけに応えてもくれない。そうやって死んでゆく人を演じた俳優は、田中裕子ただ一人です。
人を喜ばせることしか考えていなかった「オカン」は何のサービスもしないで死んでゆく。
さんざんいろいろなことをしてもらいながら自分はろくに何もできず、しかも死の床にあってなお死にゆくその人に何かをしてほしいと考えていることにおいて、残された者は打ちのめされる。
そのことがリリー・フランキーに『東京タワー』を書かせたのだとすれば、田中裕子は「ありがとう」などと言って眼を閉じてはいけなかった。この大事なシーンは、「死」の事件性ゆえに重要なのではなく、作者の心の一番深い思いが描かれるから重要なのだと思います。
そのリリー・フランキーと田中裕子の「オカン」を100%受けた大泉洋もすばらしい。彼がいなければこの『東京タワー』はなかったかもしれません。(texted by brary)
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